仮からはじまる
第五章

ああ、今日は朝から大変だったな…。

お昼休み、あたしは廊下で窓の外を見ながらぼんやりと今朝のことを思い出してたの。

ほんと、結城真一ってもてるのね。

あたしを監視する目的のための関係なのに。
そのせいで女の子たちに何か言われたりするのは面倒だな…。

ふと近付いてくる足音と人影を感じて顔を上げたら。

あー!!
結城真一!!
朝は大変だったんだからっ!!

思わず緊張して身構えたけど

「よお」

でも普通に話しかけられて。
あたしはあっさりと受け入れちゃった。

「どうしたの?」
「おまえ、朝からクラスの女どもに囲まれたらしいな?」
「な、なんで知ってるの?」

ええ、そうですよ、あなたのせいでね。
とは、とても言えないけど…。

「アツから聞いた」

ああ、平野篤ね。
ていうか何でも筒抜けなの?
よっぽと仲がいいのね?

「おまえ…」

何かを言いかけた結城真一だったけど。
突然あたしの腕を掴むと

「隠れろっ」

鋭く言って、あたしを近くの資料室に押し込む。

急にどうしたっていうのよ!!

授業で使う資料が保管されてるこの部屋にはたくさんの棚があって。
確かに言われた通り隠れる場所はたくさんあるけど…。

でも、そもそもなんで隠れる必要が?

結城真一はあたしの腕を引っ張って奥まで連れて行く。
それから、棚の影に隠れて床に座るように言われて。

こっそり廊下の様子を伺う結城真一の背中を見つめながら…。
突然のことに戸惑って、意味もなくどきどきさせられる。

急にどうしたの…?

振り返って棚にもたれた結城真一と目が合う。
ただそれだけなのに、またどきっとしちゃって。

「悪かったな、突然。あいつらが階段を昇ってくるのが見えたから、つい」

あいつらって、あの、ヤンキーのグループのこと?

「見つかったら面倒だろ?」

そりゃそうだけど…。

「隠れてるところを見つかったらどうするの?」
「大丈夫、あいつら気付いてないよ」

そうなの?
それならいいんだけど…。
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