仮からはじまる

「言ってないわよ、朝からあんな状態で誰かに言えるわけないでしょ」

ほんと、朝から結城真一のせいで、クラスの女の子たちは大騒ぎだったんだから!!

「それもそうだな…」

困ったような返事をされて、どきっとする。
いや、あのね、あたしそんな、結城真一を責めるつもりはないのよ?

今、結城真一はどんな顔してるのかしら。
人を突然抱きしめておいて、まさか平常心じゃないわよね?

肩を抱き寄せられてるせいで胸に顔を押し付けられて。
いいのか悪いのか結城真一の顔を見ることができない。

胸が硬いから顔が痛い。

もうほんと、どういうつもりなのかしら。

「そんなに心配しなくても大丈夫よ」

離してほしくて言ったら

「いや、おまえ、危ない」

そう言われちゃって。

「どういうこと?」
「おまえ、スキがあって無防備だから」

言われてむっとする。

何よ、それ!!
どういう意味!?

ちらっと結城真一を見ようとしたら、後頭部をがしっと掴まれた。
意外と手が大きいせいで、全然身動き取れないじゃないっ!!

う、動けない…。

「ほら、こういうとこ」

こういうとこってどこよ!?
どういう意味!?

それにしても…。
ち、近いっ!!
顔が、近いっ!!

いやー!!

と思ってたら。
結城真一はぱっと手の力を抜いて。
あっさりとあたしを離した。
さっきまであんなに近かった距離が急に離れて。
あたしは思わず力が抜ける。

急にもう、どうしたっていうの?
突然近づいたり離れたり、もう、心臓が持たないわ。

「そろそろ時間だな」

壁の時計を見ながらしれっと言う。

ちょっと!!
何なのよその何事もなかったかんじはっ!!

「昼休み終わるだろ、おまえ先に教室に戻れよ。おれは後から行くから」

つられて時計を見たあたしはその時間に驚いた。
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