仮からはじまる

「おいっ」

急に鋭い怒鳴り声が聞こえて、集団の動きが止まる。

もっ、もしや、この声は!!

「てめーら何してやがる?」

やっ…
やっぱり!!
結城真一!!

ただでさえ目つきが悪いのに、さらに怖い顔してるー!!
あたしを取り囲む集団を睨みつけるその表情の怖さったら…。

「あ、俺もいるよーん」

ひょいと顔を出した平野篤が、また場違いな間延びしたのんびり口調で言う。

今はそんな雰囲気じゃないのよっ!!
わかるでしょっ!!

「そいつから手を離せよ」

そいつって、あたしのことよね?

結城真一が言うと、掴まれてたあたしの手があっさり離された。

いつも思うけど…。
結城真一の言葉って力があるのね…。

結城真一が集団の中に割り込むと、あたしを背中に隠すように立つ。

「てめーはこの間からなんなんだよ。邪魔するな」

う…。
この人、二年生だわ…。
上履きの色が違うから、すぐにわかるのよ。

「邪魔なのはてめーらだろ」

結城真一は二年生に対しても口調が全然変わらないの。
険悪な雰囲気で居た堪れない気持ちにでいっぱいだけど。

でも、あれ?
これって、あたしのせいでけんかになってるのよね?

い、いやー!!
もう、なんでこうなるの!?

「こいつは俺の女だ、手だしてんじゃねえよ」

結城真一の思いがけない言葉…。
集団全員が驚いた表情だけど、それはあたしも同じよっ!!
突然何を言い出すかと思えばっ!!
どうして今ここでそれを言うのー!?

「こいつが、結城の、女?」

集団がお互い顔を見合わせてざわざわと離れる。
結城真一とあたしの顔を交互に見て、何か話してるみたいだけどよく聞こえない。

「こいつに手だししたら、そんときは…」

そのときは…?
最後まで言わないのが余計に怖いじゃないっ!!

「ふん、知るかよっ」

言いながら集団の男たちはぞろぞろと離れて行った。
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