仮からはじまる

その背中を見ながら、自分でも体の力が抜けていくのがわかる。
持っていたままの世界地図で体を支えながら、大きなため息がでる。

ああ、もう、怖かった…

ちらっと結城真一を見上げると、まだ男たちが立ち去った方向を睨んだまま。

あたし、また、助けてもらったのよね?

「唯ちゃん、大丈夫だった?」

平野篤が駆け寄ると、結城真一がくるっと向きを変えてあたしに向き直る。

「おいっ」

怒鳴られて思わず縮こまる。

「おまえはいっつもいっつも絡まれやがって。何してるんだっ」

う…。
何も言えない…。

「その絡まれ体質どうにかしろっ」

か、絡まれ体質?
あたしだって好きで絡まれてるわけじゃないのに…。

急に悲しくなって落ち込む。
あたしの絡まれ体質ってなに?
あたしだって嫌なのに。

「シン、大きい声出すの止めなよ。唯ちゃんびっくりしてるじゃん」
「けどっ、こいつがっ」
「唯ちゃんは悪くないでしょー?そんなふうに怒鳴ってたら、シンもあいつらと一緒になっちゃうよ?だから、ほら、落ち着いて」

平野篤に諭すように言われて、しぶしぶ黙る。

ちらっとあたしを見て

「わ、悪かったな、怒鳴って」

ぼそっと言われた。

まさか結城真一に謝られるとは思ってなかったから驚いちゃったけど。
平野篤の説得力にもびっくりした。

平野篤の言葉は説教みたいだけど、結城真一はちゃんと聞いてるのね?

怒鳴ったらあいつらと一緒だよ
うん、これはまた怒鳴られたときに使えるかも。
でも、あたしにはあの集団と結城真一が同じとは思えないわ。

本当は心配してくれてるからってことが何となく分かってきたし。

「唯ちゃん、許してあげてね?シンは本当に唯ちゃんのことが心配なんだから」
「うるせえなっ、だからそれはもういいだろっ」

ふん、と不機嫌そうな表情だけど、もう刺々しい雰囲気は消えたみたい。
にこにこ笑う平野篤の雰囲気に中和されたのかしら。

結城真一は改めてあたしに向き直ると

「で、おまえはここで何してたんだ?」

ぶっきらぼうに聞いてきた。

「先生に授業で使った世界地図を片付けるように言われて…」
「ふうん?じゃ、それ片付けたら終わりか?」
「う、うん…」
「一緒に帰るぞ、おまえ危ないから」
「え、でも…」
「あいつらまだその辺にいたらどうするんだ?」

言われて考える。
た、確かに…。
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