仮からはじまる

「無事でよかった…」

呟くように言われて。
あたしも体の力が抜けるの。

その一言だけで。
心配してくれてたのが伝わってきて。

「心配してくれたの?」
「うるせえな」

ぶっきらぼうに言われたけど。

結城真一は力を抜いて。
あっさりあたしから体を離すと

「おまえ、鞄は?」

さらっと聞かれた。

「あ、えと、まだ教室…」
「じゃあ、取りに行くか」

遠慮がちに結城真一に手を差し出されて。

これは…。
手をだしてもいいのかしら…。

あたしはその手に自分の手を重ねた。

なんでかしら。
結城真一の不思議なところよね。
何も言わず急に強引に抱きしめたりするくせに。
そのあとに手を差し出すときは遠慮がちなの。

「おまえ、手、冷たいな」
「そう…?」

指を絡ませる結城真一の手の暖かさを感じながら。
あたしたちは手を繋いで教室に向かった。

「明日から一緒に帰るか?」
「あたしのことが心配だから?」
「まあな…」

あ、認めたわね?

「おまえ、ほっとくとまた大変だからな」
「絡まれ体質だから?」
「だからそれは…。もう忘れてくれ」

呆れたように言われたけど。
本当は優しいこと、知ってるわよ。

急に抱きしめられたりして。
むかつくことも言われたけど。
あたしのこと心配してくれてるのがわかるから。
いつも助けてくれるでしょ?
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