仮からはじまる

「う、うん…」

首を縦に振るしかないの…。

「そうなの?」

今度はともちゃんに聞かれて。

「う、うん…」

でも、同じことしか言えないし…。

「御崎さん、結城くんのこと、全然知らないって言ってたのに…」

それを聞いた結城真一に、さらに睨まれたのに気付いて。
あたしはますます縮こまる。

ああ、もう…。
本当のことなんだけど…。
それを結城真一の前では言ってほしくなかったわ…。

「それは、そうなんだけど…」

実際、結城真一のことなんて本当に何も知らないんだから。

「そうなの?」

平野篤にまで言われちゃうし…。

「今はまだ何も知らないけど…」

でも、それじゃ納得してもらえないわよね?

「でも、これから知っていきたいと思ってるの…」

だからそれで許してっ!!

「ふうん?」

結城真一の声に顔をあげると、意地悪そうに笑いながら、からかうようにこっちを見てるっ!!

もうもう、何よ!!
どうしてよ!!

「結城くんが笑ってる…」

呟くようにともちゃんが言ったのが聞こえた。
笑顔っていうか、ただの意地悪な顔だけどね?

「笑うなんてありえない…」

ともちゃんに相槌をうつようなあきなちゃんの言葉が引っ掛かる。

「笑うわよ?結城真一だって楽しかったら笑うわ」
「だって、さっきまであんなに怖い顔だったのに」

う…。確かに…。
それはそうなんだけど…。
でも。

「怖いだけの人じゃないわ。だから、笑うなんてありえない、なんて言わないで」

ムキになって言い過ぎたかしら…。
あきなちゃんもむっとしてるみたい。

でっ、でもでも!!
笑うなんてありえないなんて、言い過ぎよ!!

「もういいよ…」

ともちゃんが言っても、あきなちゃんは納得できないみたいだったけど。

「もういいから…」

必死に言うともちゃんに、しぶしぶ納得したみたい。
歩き出したふたりの背中を見つめながら、急に疲れて力が抜ける。
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