仮からはじまる

「おいっ」

鋭い声が聞こえて。
急に静まり返って注目を集めるのは…。

ていうかこの声は…。

「てめーら、何してんだ?」

やっ…
やっぱり!!

結城真一!!

さあーっと人の波がひいて。
結城真一が姿を現すの。

めちゃくちゃ怖い顔してるから、みんな怯えてるじゃないっ!!

「あははー、みんな朝からどうしたの?」

相変わらず平野篤はのんきなんだからっ!!

みんなの注目を一身に集めちゃって、視線が痛い…。
背中に冷や汗を感じながら、どきどきしすぎて酸欠になりそう。
じっとあたしを見つめる結城真一と目があっても、どうしていいかわからないの。

だからっ!!
顔が怖いのよっ!!
まずその怖い顔をやめてちょうだいっ!!

「結城くんと御崎さん、付き合ってるの?」

沈黙の中で誰かが言ったのが響く。
集団の中に、誰かひとりは勇気のある人がいるのね?
その言葉をきっかけに、ざわざわとざわめく声が聞こえるの。

結城真一は首を後に傾けると、不敵な表情で

「だったらどうした?」

しれっと言う。

ざわざわと
本当に?
まじで?
なんで御崎と?
話す声が聞こえるけど。
結城真一は全然気にしてないみたい。

御崎さんと付き合うなんて、ありえない
そうだよー、釣り合わないもん

なんて声まで聞こえてきて…。
思わず落ち込む。

ええ、そうですか、釣り合わないですか。
あたしだって釣り合うとは思ってませんよ。
でもこれにはわけがあるんですから。
まあ、この人たちに説明する気なんて、さらさらないけど…。

「おまえは気にするな?」

近づいてきた結城真一に耳元でぼそっと言われて。
あたしはやっと隣に立つ結城真一に気付いたの。
いつのまに?

「おい、おまえら、文句あんのかよ?」

急にしんと静まり返って、また結城真一は注目を集める。
あたしに背中を向けて立つ結城真一の表情は見えないけど、きっと睨んでるんだわ。
取り囲む女の子たちが怯えてるじゃない。
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