仮からはじまる

「てめーら、離してやれよ」
「そうだよー、嫌がってるじゃん」

鋭い声と、間延びした声が響いて。
一斉に声のした方に振り向く不良たち。
誰かと思って顔を上げたら。

結城真一と平野篤!!

まさか、なんで、どうして?
もしかして今、助けてくれたの?

結城真一に言われただけで。
掴まれてた腕をあっさりと離されて。
不良たちは逃げるようにどこかに行っちゃって。

あれ…。
これって…。
結城真一の力?

「おい、大丈夫かよ」

結城真一に話しかけられて。
驚いたせいで、必要以上にどきっとしちゃって。
この人の一言で、あっさり去った不良たち。
どういう人なの?

「あ、えと、あの、大丈夫です…」
「災難だったな」

そう言われて。
ほんと、災難だったわ。
言われたことに思わず同意しちゃうの。

「早く帰るぞ、あいつら戻ってきたらまた面倒だからな」
「そうだねー、行かなきゃ」

早く早くと平野篤に急かされて。
あたしも慌てて靴に履き変える。

駐輪場に向かって歩くふたりのうしろで、どうして三人で歩いてるのか考えたけど。
答えは見つからないの。

でも。
助けてくれたのは事実だし。
お礼、まだ言ってないわ。
駐輪場に着いたところで

「あのっ!!」

必死に声を出す。
振り返ったふたりの顔を見たら、急に緊張しちゃって…。
でも、言わなきゃっ!!

「あの、助けてくださって、ありがとうございました…」

かなり思い切って言ったのに。

「ああ、別に、気にしなくていいぞ」

あっさり軽く言われちゃって。
恩着せがましいよりはいいと思うけど…。

「じゃあな」

行っちゃった。

去る二人の背中を見送りながら。
結城真一の言葉を思い出すの。
あの人の一言で、あっさり去った不良たち。
もしかして、何かすごい人なの?
とんでもない人?
なんて思ったりして。
真相は謎だけど。

それにしても。
平野篤とふたりで話してるときは、とっても楽しそうなのよね。
よく笑うし。
眉間にしわの不機嫌な表情とは全然違うし。

あの人、楽しかったら笑うのね。
怖い顔には理由があるのよ。
そう思ったら、印象ががらっと変わるわ。
怖いだけの人じゃないのよ。
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