仮からはじまる

帰り道。
だんだん緊張してきて…。
あたしは何も言えなくて。

結城真一も、今日はいつもより口数が少ない。
そんなに話す方じゃないけど。
黙ってることが多いの。
それがますます緊張するわ…。

ついに、いつも別れるところまで来ちゃって。

「じゃあな」

自転車に乗って走り去ろうとするところを、慌てて引き止める。

「あ、あのっ!!」

不思議そうな表情で立ち止まる結城真一。

「どうした?」

言わなきゃっ!!
ここで怯んだら負けだわっ!!

好き
って言えばいいのに。
言えなくて。

「今日、何か急いで帰らなきゃいけない用事はありますか?」

変な敬語…。
自分で聞いてても、おかしいと思うけど。
でも、あたしは必死なのよっ!!

「いや、別に…」
「あの、ちょっと、お話が…」

もごもごしちゃって。
自分でも嫌になるけど。

と、思ってたら。
くるまが来たから、あたしたちは自転車を押して道の端に寄ったの。

そうよね…。
ここ、くるまが多いから。
これじゃ落ち着いて話ができないわ…。

「そこの駐車場に自転車止めるか」

そう言って進みだした結城真一。
あたしもそのうしろに着いて行く。
少し行ったら、広めの駐車場があって。

並んで自転車を止めたら

「急にどうした?」

聞かれて。

それもそうよね…。
疑問に思われて当然だわ。
さっきまで黙ってたのに…。
わざわざ呼びとめるなんて。

「あの、これ…。よかったら…」

差し出したあたしの手から

「お、まじで?ありがとな」

受け取ってくれたのはいいけど。
雰囲気が軽くて。

いや、あのね。
重々しいのは嫌だけど。
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