仮からはじまる

「最初に言ってくれたらよかったのに」
「最初?駅の裏の駐車場か?」
「そうよ、そのときよ」
「おまえ、あの場面で好きだから付き合えって言って、納得できるのかよ?」

う…。
絶対に無理ね…。

考えてたら。
結城真一に両手を差し出された。

これは…。
どうしたらいいのかしら。

とりあえず。
自分の両手を重ねてみたの。
手が暖かくて、びっくりするくらい。

掴まれた両手をぐいっと引っ張られて。
あたしは結城真一の胸に飛び込む。

ぎゅうと抱きしめられて。
どきどきするけど。
安心するわ。

前とは違う、この感覚。

「ありがとな」

耳元で囁くように言われて。

あたしは、精一杯の力で。
結城真一の背中に腕を回すの。
制服の背中を掴んだら。
結城真一はますます力をこめて。

そして、あたしを離す。

よく考えたら。
ずっと好きでいてくれたのに。
告白するとかしないとか考えてたあたし。
無意味だった?

でも、いろいろ考えた結論だから。

結城真一の笑う顔を見て。
これでよかったと思えるの。

「ありがと」

呟いたあたしの言葉に笑ってくれた結城真一。
それだけで、もういいわ。
その笑顔が、大好きなんだから。
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