仮からはじまる

「おい、てめーらいい加減にしろよ」
「そうだよー、唯ちゃん怖がってるでしょー」

鋭い怒鳴り声がして。
場違いな間延びしたのんびり口調が割り込む。

これは…。
聞いたことあるような、この声は…。

そう思って顔を上げると。
何とそこにはあの!!

結城真一と平野篤!!

薄暗いせいもあると思うけど。
全然少しも気が付かなくて。

鋭い目つきで睨む結城真一。
隣に立ってる平野篤も、いつもより怖い顔してるし。

ちょっと…。
顔が怖いんですけど…。

そして急に殺気立つあたしの周りの集団…。

「てめーら、そいつから離れろ」

結城真一に言われて。
そいつって、あたしのこと?
一気に険悪な雰囲気で睨みあう。

怖い…。
怖すぎてどうすることもできない…。

囲まれたあたしをこの場から助けてくれるのはこのふたり。
…かもしれないのよね?

ていうか、助けてくれる保障なんてある?

でも、この集団よりはましだろう、とは思うの。
そう考えてたら。

なぜか結城真一が意地悪そうに笑いながらこっちを見てる…。
なんでこの状況で笑ってられるの?
何が楽しいの?

平野篤までにこにこ笑って。
このふたり、おかしいの?
さっきの怖い顔はどうしたの?

「おい、助けてほしいか?」

はあ?
何それ?
どういう意味?
そんなこと言ってる場合?

「こいつらと遊ぶのか?」

結城真一に聞かれて。

「そんなわけないでしょっ」

つい、大きい声で言っちゃう。
でも、それを聞いてた集団の一人が

「こんなやつらに助けを求めてどうするの?」

言いながら、あたしの手首をぐっと掴む。
痛くて思わず顔が歪む…。

急なことでバランスを崩したあたしは、地面に足をついて思わず自転車から降りちゃって。
いざとなったら走って逃げるつもりだったのに…。

「ちょっと、離してよ」
「かわいい声だねー」

全然聞いてないし。

もう嫌…。
どうしてこうなるの?
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