青のキセキ
「え?あぁ、ごめん。考え事してた」
「朝ごはん、出来てるわよ」
「ああ。いただきます」
目の前の朝食を口に運ぶ。
チーズトーストとハムエッグを食べ終え、ホッと一息ついた。
「ねぇ、大和。不妊治療はあなたの協力も必要なの。お願い。休みをとって病院に一緒に行って欲しいの」
「今は休めない。分かるだろ?お前も会社務めしてたんだから、なかなか休みが取れないことぐらい」
「私と仕事、どっちが大事なのよ!」
しまった、という顔をした綾。
翔の結婚式の朝、今と同じ綾の台詞で喧嘩が始まったこと。
それを忘れていたのか、わざとなのか、全く同じ台詞を吐いた綾。
「綾の気持ちもわかる。でも、こっちに戻ってきたばっかりで、勝手な事できないんだ。昇進したばっかりだし、仕事しないと生活も成り立たないだろ?」
「もっと休みの取れる仕事に転職してよ!大和ならいくらだって仕事あると思うし」
「は?お前、本気で言ってる?」
「もっと私のことも考えて。私達、夫婦でしょ?」
「とりあえず、しばらく会社は休めない」
綾の言う事もわかってる。今の俺は綾を裏切ってるんだから。
子どもが欲しくて必死な綾を、見捨てる事はできない。
俺の子どもを産みたいという綾の気持ち。
「大和、とりあえず来週末はちゃんと帰ってきて。排卵の時期なの。お願い」
「.....わかった」
綾の言葉が頭の中を支配する。
来週末、排卵時期。
俺の気持ちは?
綾がいながら、美空を思う俺は人間として最低だ。
綾の浮気を許した時点で、俺は綾との生活を続けると決めた。
決めた筈だった。
なのに、美空に出会って、その決心が揺らいでいる。
俺は、何て最低な人間なんだ。