青のキセキ
「綾が浮気したんだ」
意を決したように話し出した翔さんの口から飛び出したのは、信じられないような内容だった。
浮気?綾さんが?
だって。今日の綾さんを見る限り、課長を愛してるのが痛いほど伝わってきた。思わず目を背けたくなる程...。
なのに、その綾さんが浮気だなんて...。
「綾の浮気現場に俺が出くわしてさ」
追加で注文したビールを、一口飲んで翔さんが言った。
「久香と付き合う前の話だから、怒んなよ」
翔さんが久香に、そう言い置きして。
「当時付き合ってた女とホテルに行ったんだ。そしたら、隣の部屋から綾が他の男と腕を組んで出てきたってわけ」
「うわぁ~。それは言い逃れできないね」
久香は気にも留めず、翔さんの話を聞いている。
「綾は大和に言わないでって俺に頼んできたけど、俺はすぐに大和に連絡したんだ」
「それで、どうなったんですか?」
久香が課長に聞く。
「綾は浮気を認めて、泣いて謝ってきたよ。当時、俺は九州に単身赴任してたんだ。綾に寂しい思いをさせたのは俺にも責任があると思ったし、なかなか子供ができなくて苦しんでた綾を、必要以上に責めることは出来なかった」
「そんな...。海堂さん、優しすぎますよ!」
久香が、いささか怒り気味に課長に詰め寄る。
「確かに、裏切られたと思ったよ。何のために単身赴任までして仕事してるんだとね。正直、離婚も考えたさ。でも、泣いて土下座までする綾をどうしても突き放すことが出来なかったんだ」
フッと微笑んでそう言う課長は、とても切なげで。
「相手は誰なんですか?」
久香が続けて聞いた。
「最初はナンパされたらしい。それから何度か関係を持ったと言われたよ」
課長が切れ長の目を閉じながら言うのを見て、当時、課長がどれほど苦しんだのか…と、心が痛くなった。
「相手とは、それから直ぐに別れたみたいだ 」
「……大和、そのことなんだけどさ…」
翔さんが少し言い辛そうにしている。
「ん?どうした?」
「…………」
眉間に皺を寄せる翔さんは、課長に言うべきか悩んでいるように見えた。