青のキセキ
目が覚めた後も、なかなか起き上がれずに、ベッドの中で課長のことを考える。
昨日。帰る間際、改札口で。
「月曜日から、同じ電車で出勤しないか?」
課長が少し照れたように。
「いいんですか?誰かに見られたりしたら....」
少しでも課長と一緒にいたいと思ってたから、嬉しい。
でも...。
「別に、見られても構わないさ。同じ会社なんだし、別に誰も何とも思わないだろ」
嬉しかった。
「じゃ、いつだったか。同じ電車になったこと、ありましたよね?あの電車でいいですか?」
「ああ。あの電車で。同じ場所で」
課長の視線を背中に感じながら、私はホームまでの階段を上った。
明日からは、今までよりも少し早く起きなきゃ。
なんて考えていると、携帯の着信音が聞こえた。
ベッドサイドの棚にある携帯電話を取り、表示を見ると『久香』の文字。
「おはよー。昨日は色々ありがとうね」
「おはようさん!今どこ?海堂さんのマンションとか?」
「な、何言ってんのよ。自分の家だよ」
「なんだー。つまんない。遥菜、自分のマンションに帰ったみたいー」
電話の向こうで、久香が翔さんに報告している様子。
ほんと、何考えてんだか...。
クスクスと笑いながら、改めて久香にお礼を伝えた私に、久香が言った。
「私と翔ちゃんは、遥菜の味方だから。例え、海堂さんと遥菜が世間に後ろ指を指される関係だとしても。だから、1人で抱え込むんじゃないよ。いつでも話聞くから。相談にものるしさ」
「...うん。ありがと」
電話を切った後も、久香の言葉を思い出す。
久香の存在が本当に大きくて。
小さい頃から、ずっと一緒に時を過ごしてきた。久香とは家族以上の繋がりがあると思う。
喜びも苦しみも一緒に味わってきた。
施設を出てからは、お互い助け合って生きてきた。
私は一人じゃないんだという、安心感。
そして、心強さ。
課長との道徳に背いた関係でさえ、応援してくれるという久香の言葉が、私を強くしてくれる。