青のキセキ
外貨預金や株、FX、ファンドなどの資産運用のおかげで、課長はかなりお金持ちだということ。
また、それらで得た利益で、いくつかの不動産を所有していること。
そして、それらを綾さんは知らないということ。
「どうして、綾さんに言わないんですか?夫婦なのに...」
率直に疑問に思ったことを口にする。
最初は言いたくなさそうにしていた課長だったけれど、少し間を開けてから話し出した。
「美空は、給料のうち、いくらか貯金とかしてるんだろ?」
「はい。毎月、少しずつですけど。後、ボーナスも必要なものを買った残りは貯金してますよ」
毎月の生活は楽じゃない。でも、仕事をしているおかげで、贅沢さえしなければきちんと生活できる。
「それが普通だと思うんだけど...。綾には貯金という概念が全くないみたいでさ。始めのころ、給料が振り込まれる口座の管理をあいつに任せて大変な目にあったんだ。全部自分の小遣いのように使ってた。それ以来、あいつには生活費として毎月決まった額を振り込んでるんだ」
「そうなんですか」
「あればあるだけ使う。だから、綾には話してない。もともと、綾には関係のないことだしな」
(......関係のないこと?)
「もともと、学生時代に自分の金で始めたんだ。だから、綾には一切関係ない」
「そうだったんですか」
「だから。金には困ってない。これからもお前に金を出させる気はないから」
「は...い。ありがとうございます」
お言葉に甘えちゃっていいのかな...。
「まぁ、それは生活費として使うつもりはないから、こうやって働いてるんだけどな。家のローンやらマンションの家賃やら、綾の生活費やら。“働かざる者食うべからず”って言うしな」
そのうちに大通りに出てタクシーに乗り、マンションまで送ってもらった。
「明日、迎えに来るから。家を出る前に連絡入れるよ」
タクシーを降りる間際に、課長が私に言った。
いよいよ、明日は出張だ。