青のキセキ
『翔』を出て、大通りまで歩く。
突然、美空が『たまには私が払う』なんて言ってきた。
は?
そんなこと、させられるわけがないだろ。
惚れた女に金を出させるような真似は出来ない。
――――あ。もしかして...。俺の懐具合を心配してるとか...?
そりゃ、そうだな。
家とマンションの二重生活。普通、生活でいっぱい×2だと思うよな。
こいつには話しておくべきか。
「お前だけに言っておくけど...」
実は、資産運用が上手く行き、それを元に何軒か不動産を所有していて、かなりの額の貯金がある。
でも、それについては綾には一切話していない。
綾にはJPフードの給料の額だけしか知らない。
結婚し立ての頃。
給料を全額渡してたら、全く遣り繰り出来ずで、自分の欲しいものを買いまくった綾。
生活費全て使い込んでいた。
それ以来、決まった額だけを綾の口座に振り込むようにした。とはいっても、食費に小遣いとしては十分な額だと思う。貯金もできるはず。
資産運用の元手は、社会人になるまでの俺の貯金。だから、綾には一切関係のない金。
別に金が惜しくて綾に言わないんじゃない。
綾のためにならないから言わなかった。これからも言うつもりはない。
仕事をせずに、生活する気は更々ない。
だから、簡単に仕事を休めと言う綾に腹が立った。
仕事というものの、大切さ。
働くことの意義。
楽して生活はできないことを分かって欲しかった。
まぁ、てな訳で。
美空には誤解のないよう、説明した。
毎月の給料で、遣り繰りしながらも少しずつ貯金していると言った美空。
がんばって仕事しなきゃ...と言う美空が、俺には輝いて見えたんだ。
明日は出張。
美空と九州を楽しみたいと思う。
泊りがけだということを意識しないわけではないが、無理強いをするつもりはないし、美空と二人で過ごす時間を大切にしたい、そう思った。