青のキセキ
その日の夜、土産を渡すために『翔』へ赴く。
美空も一緒に行くと言ったが、疲れてるだろうから上司命令(?)で家へ帰した。
「土産、サンキュ。いつも悪いな。で、出張どうだった?」
店内の客がほとんど居なくなった頃を見計らって、翔が聞いてきた。
「あぁ、うまくいったよ。また近いうちに行くことになりそうだがな」
ビールを飲みながら返事する。
「そんなことは聞いてない。遥菜ちゃんと何かあっただろ?」
「え?何かって...?何でそんなこと..。あるわけないだろうが...」
「あったんだな」
こいつには隠せない...。
「美空を...抱いた」
「やっぱりな」
俺と美空の間にあったことを見透かしていたように、翔が口角を上げた。
「あいつを抱いてから、俺おかしいんだ。あいつのことしか考えられなくて、早くあいつに触れたくて。もっともっと、美空を求めてしまうんだ」
「それは、お前が遥菜ちゃんを愛してるからだろう?」
「......。こんな気持ち初めてなんだ。今まで、他の女や綾に対して、こんな底なしに抱きたいと思ったことはなかったのに、美空のことはいくら抱いても抱き足りない。ずっと繋がっていたいと思う」
「お前と遥菜ちゃん、体の相性がいいんだろうな」
クックッと笑いながら言う翔。
「いいどころの問題じゃない。良過ぎて困る」
「大和...お前、完全に遥菜ちゃんに溺れてんじゃん」
翔に言われ、否定できない。
「あぁ。美空が愛しくてたまらないよ」
俺の表情を見た翔が、
「...お前、今どんな顔してるか分かってるのか?」
と驚いたように言った。
「え?」
「ものすごい優しい顔してるぞ。そんな表情のお前、初めて見るかも...」
「からかうなよ」
ギロッと翔を睨む。
「遥菜ちゃんのことを考えるだけで、お前ってそんな表情になるんだな。それにしても、あの大和がねぇ...」
頭を左右に振りながら、しみじみと言う翔。
「どういう意味だ?」
「女には困ったことがないお前を、そこまで夢中にさせる遥菜ちゃんってすごいな。
愛してる女と体の相性も抜群とくりゃ、そりゃ溺れても仕方ねえな」
白い歯を見せて豪快に笑う翔。
「お前、楽しんでないか?」
そんな翔を非難するように横目で睨みながら言うと、
「当たり前だろ。お前をそこまで溺れさせる女がいること自体、びっくりだよ。この状況を楽しまずしてどうする」
と、楽しそうに言う翔。
はぁ、ったく。頭をガシガシ掻く。
でも、翔の存在がこんなにも心強い。
美空のことを相談できる相手がいるだけで、少しばかり強くなれる気がした。