青のキセキ
「大丈夫なの?」
綾さんが課長に聞いた。
「あ、あぁ。大丈夫みたいだ」
「すみません。ご迷惑をおかけして...」
綾さんに頭を下げる。
「気にしないで。大したことがないみたいでよかったわ」
そう言って優しく微笑んでくれた綾さんに、私は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「石川さん、タクシー待っててもらってるんだけど...。どうしましょうか?一旦帰っていただいた方がいいかしら?」
綾さんが石川さんに言っているのが聞こえた。
「すみません。もう大丈夫ですから」
立ち上がって布団を畳もうとした時、
「美空、無理するな」
と、横から手伝おうとした課長の手と私の手が触れ、私の身体に電流が走った。
課長の肌に触れたせいか、顔が熱くなるのを感じ、私は慌てて手を引っ込めた。
「.....すみません」
どうしたらいいのかわからなくて、ただじっと課長が布団を畳むのを見ていた。
「じゃ、美空ちゃん、帰ろうか」
私と課長のピンと張りつめた空気の流れを変えるかのように石川さんが言った。
「はい」
部屋の隅に置かれたバッグを持ち、課長と綾さんに挨拶をする。
「美空、本当に大丈夫なのか...?無理は...するなよ」
まだ心配してくれる課長に石川さんが言う。
「俺が責任を持って送りますから。課長は心配しないでください」
「あ、あぁ。頼む...な」
課長の声を背に、私と石川さんは会館を後にしてタクシーに乗り込んだ。
「気を付けて帰れよ」
「今日はありがとう」
外まで見送りに来てくれた課長と綾さん。
結局、課長の目を一度も見ることが出来ず、タクシーは走り出した。