青のキセキ
「美空...?」
ベッドに腰を下ろし、私の様子を窺う課長の眼差しはとても優しくて。
それに比べて、私の心は何て醜いのか...。
自分の心の醜さに居た堪れず、私は課長に背を向けた。
「すみません。どうしても嫉妬してしまう自分が情けなくて...嫌になる...」
「嫉妬...?」
「...課長が綾さんを抱いてるのかと思うと、苦しくて仕方がないんです」
課長と、こういう関係になってから、私は『女』なのだと思い知らされた。
女は嫉妬する生き物。嫉妬することが、こんなに苦しいことだなんて課長と付き合いだしてから初めて知った。
元彼のときは、嫉妬なんていう感情を抱くことがなかったから。
自分の中に、こんな...どす黒い感情があったなんて。そして、それは日に日に大きくなってゆく。
課長に背を向けたまま、自己嫌悪に陥る私。
「抱いてないよ」
思いがけない言葉が課長から漏れた。
「...え?」
ゆっくりと課長の方を振り向くと、とても優しい表情で私を見つめる、切れ長の瞳がそこにあった。
「美空と、こういう関係になってからは、一度も綾を抱いてない」
本当に...?
嬉しいと思った。
でも、次に思ったのは。
綾さんはどう思ってるのか、ということだった。課長のことを愛してるのだから、きっと課長に抱かれたいと思っているはずだから。
私と同じ気持ちだと思うから。
きっと、辛い思いをしているはず。赤ちゃんを望んでいるのに、作ろうとしないことに不満がたまっているはず。
課長が綾さんを抱いているのかと思うと嫉妬で狂いそうなのに。
課長が綾さんを抱いていないことを知って嬉しいのに。
綾さんのことを思うと、切なくなる。
矛盾した、この気持ち。
自分でもどうしたらいいのか、分からない。
それに、これから先のことは誰にも分からない。今はまだ抱いてなくても、これから、そうなることがあるかもしれない。いつまでも、今のままではいられない。
そう思うだけで、胸が、心が苦しい。