青のキセキ
「これから毎週土曜日、そっちに行っていいかしら」
「...え?」
突然のことで、何を言っているのか分からない。
「父と母が亡くなって、色々考えたの。大和、こっちに全然帰ってきてくれないし、寂しくて。やっぱり、赤ちゃんも欲しいし、あなたとの時間をもっと増やしたくて。平日は私も習い事やジムに行ったりしたいし、週末だけでも一緒に過ごせたら...と思ったの。赤ちゃんを作ろうにも、今のままじゃ、できないでしょ?」
「......」
「それとも、あなたがここへ戻ってきてくれる?本当はそれが一番嬉しいんだけど...」
「それは...」
「無理でしょ?通勤時間とかを考えたら。だから、私が行くわ。私達、夫婦なんですもの。もっと夫婦の時間を大切にしましょうよ」
「........」
「どうしたの?黙っちゃって。私がそっちへ行くと、困ることでもあるの?」
「いや...そう言う訳じゃない。ただ、仕事で休めないときもあるから...」
「その時は連絡をしてくれたらいいじゃない。今週末から行くわ。日曜の夕方にはこっちに戻ってくるつもりよ」
言いたいことだけ言って、電話を切った綾。
俺は携帯を耳に当てたまま、しばらく動けなかった。
は?毎週末こっちに来る?
ちょっと待てって。
どうすればいい...?
変に断って、美空のことを気付かれても困る。
でも、だからと言って、綾の言いなりになるのは...。
美空との時間が減ることも気に入らない。
チッ!!
舌打ちをし、携帯をソファに投げる。
美空に何て言えばいい...?
それにしても、平日は習い事にジムだと言っていた綾。
ジムに行っていることは知っている。そこに、例の浮気相手がいることも翔に聞いた。
綾は、俺がそのことを知っていることに気付いていないようだ。
だから、平気でジムへ行きたいなんて言えるんだろう。
今も、その男と続いているのか...と一瞬考えたが、すぐにそんなことはどうでもよくなった。
ソファに腰掛け、天井を見上げる。
綾のことを美空に話なければ...。
それを聞いた時の美空の辛そうな表情を想像して、胸が痛む。
その夜、俺は眠ることができなかった。