青のキセキ
週末が来る度に、一人で泣いて落ち込む日々を過ごしていた私を救ってくれたのは、久香だった。
「ねぇ、遥菜。しばらくの間、土曜日の夜だけでいいから店を手伝ってくれる気ない?」
ある日、久香に言われた。
「チャコちゃんがしばらく来れなくなったのよ」
チャコちゃんていうのは、『翔』にアルバイトで来てる学生の女の子のことで、久香曰く、留学することになったらしい。
「どうせあんたのことだから、一人で家で泣いてるんでしょ?店手伝ってくれたら、気分転換にもなるし、余計なことを考えなくて済むと思うわよ」
久香には隠せない。
「もちろん、バイト料弾むわよ」
というわけで、土曜日の夕方から『翔』を手伝うことになった私。
課長に相談したら、
「...そうか。会社も副業を禁止してないし、美空のしたいようにしていいよ」
と、言ってくれた。
そんな日常が過ぎてゆく中、課長の腕の中に居る時のことだった。
「仕事、慣れたか?」
私の髪を指で梳きながら、課長が言った。
「はい。少しずつですけど...。最近は、洗い物やホールだけでなく料理を作ることもあるんですよ。料理の腕、上がるかも」
言いながら思った。課長が私の手料理を食べることなんて、ほとんどない。
二人で会うのは、外かホテル。私の家で過ごしたのも、あのお通夜の夜だけ。
今までに私が作った物を課長が食べたのは、バーベキューの時だけ。
これから先、課長に食べてもらえる日なんて来るのかな。
その後の言葉が続かなかった。泣きそうになるのを我慢する。
課長の胸に顔を隠す。涙が零れそうになったから。
「...ごめんな」
と、頭を優しく撫でてくれる課長。
「気にしないでください。バイト料貯めて、欲しかった鞄を買っちゃおうと思って」
と、努めて明るく振る舞う。
きっと、課長も苦しんでる。
だから、泣いてなんかいられない。
課長との関係を守りたいから。