青のキセキ
会議が始まるまでの間、デスクで仕事をしている課長。
眼鏡をかけ、パソコンで何か作業をしている様子。
手を伸ばせば届く距離に課長がいるなんて、何日ぶりだろう。
すぐ近くに課長がいるだけで、こんなにも心臓の音が響くのを感じる。
結局、修一さんのことは課長に知らせていない。
彼は結婚して奥さんもいて、何かされた訳でもないし、もうすぐ彼と関わることも無くなるから。
「そう言えば、美空と佐山、仕事がんばってるみたいだな。部長が褒めてたぞ」
課長に言われ、ドキッとする。
「本当ですか?部長に褒めてもらえるなんて、嬉しいね。美空ちゃん」
隣の席で、佐山さんが笑顔になった。
「そ...うですね。試作品も一発OKだったし、上手くいってよかったです」
佐山さんに同調して、私も笑顔で言った。
「あんなイケメンの先生と知り合いだったなんて、美空ちゃんが羨ましいわ~」
佐山さんの言葉に、課長がキーボードを叩くのを止め、私の方を見た。
「美空の...知り合い?」
眼鏡の奥から、私の方をじっと見つめる瞳。
心拍数が上がるのを感じた。
「あ…あの…以前働いていた病院の先生で…。結婚して婿養子に入ったらしくて、私もビックリしました」
何故か、早口になってしまう。
課長に不審に思われたら、どうしよう...。
「そうか…。偶然だな」
私の言葉に納得したのか、特に追及されることもなく、課長は再びパソコンのキーボードを叩き始めた。
その様子を見て、ホッと胸を撫で下ろす。
彼のこと、言うべきなのかもしれないけれど、さっきも明日の朝一番の新幹線で東北へに戻ると言っていた課長に、心配をかけたくない気持ちの方が大きかった。
終業後。
携帯にメール着信。
「いつもの店で」
たった一言。
相手はもちろん課長。
嬉しい。