青のキセキ
「遥菜ちゃんも寂しがってんじゃないの?お前の出張の話聞いて」
「...笑顔で『大丈夫』だと言ってたけど、あいつのことだから俺に心配させまいと強がってるんだと思う」
昼休みに給湯室で、美空と二人きりになった時のことを思い出しながら言った。
「ていうかさ、綾とはどうなってんの?」
翔が睨むようにして言った。
「......綾はこっちに来る度に『浮気は許さない。もし浮気したら、相手を殺すから』って言ってる」
「でも、綾とそういうことはしてないんだろう?」
翔の言う『そういうこと』が、何を指しているのかは、すぐに分かった。
「一切ない。美空と付き合うようになって以来、一回も綾を抱いてない」
「綾は、お前が自分を抱かないことをおかしいと思ってないのか?」
「以前は怒ってたよ。何で抱いてくれないのかって。でも、急に言わなくなったんだ。最近はキスすらしなくなった。理由は謎だけどな」
「そうか...。何でだろうな」
不思議そうに考える翔。
何故、綾が言わなくなったのかは俺にもさっぱり分からない。
ただ、美空のことが知れたら...。綾の逆鱗に触れて、あいつは何をするか分からない。
出口の見えない俺と美空と綾。
はぁ~と溜息を吐く。
「遥菜ちゃんに指輪とかプレゼントすれば?これを俺だと思って...とか言ってさ」
「美空、物欲がないみたいでさ。何もいらないって言うんだ」
以前に何度か、プレゼントしよう思い、何か欲しいものはないか聞いたことがある。
その度に、美空は何もいらないと言った。
欲しいものがあったら、自分で買うからと。
腕時計があるから、もう十分だと。
「遥菜ちゃん、真面目だからな。でも、誕生日はちゃんとプレゼント渡してんだろ?」
「誕生日は美空のリクエストで、ご飯を食べに行ってホテルで泊まって一緒に過ごしてる」
「それだけ?」
「あぁ。美空が言うんだ。アクセサリーやバッグとか『物』はいつでも買えるけれど、俺との時間は金じゃ買えないからって。だから、物はいらないから、一緒に過ごしてほしいって」
「大和。お前、今どんな顔してるか、自分でわかんねぇだろ?」
目尻を下げて言う翔。
「は?どういう意味だよ」
「お前、本当に遥菜ちゃんが好きなんだな。そんな優しい表情のお前を見られるなんて...」
翔に言われるまでわからなかった。
そんなに顔に出てるのか...?
確かに、美空のことを考えると今でも胸が熱くなる。
こんなに愛した女は美空が初めてだ。
ずっと一緒にいたいと思う。片時も離れず、側に置いておきたいと思う。
「俺も久香もお前らの味方だからな」
翔の言葉が力強い。
「久香さんは?」
「一花と上にいるよ。想像以上に赤ちゃんの世話って大変みたいでさ」
そう言って、上を指さす翔の顔は幸せそうで。
「お前の方こそ、すごいデレデレしてるぞ」
と言ってやると、
「お前に言われたくねぇ!」
とすぐさま翔が言う。
些細なやりとりが、俺をホッとさせてくれる。
美空にとって久香さんの存在が大きいように、俺にとっても翔の存在がありがたい。