青のキセキ
本社に着いたのは、お昼を過ぎた頃だった。
みんなが笑顔で労いの言葉をかけてくれるのが嬉しかった。
何より、美空の笑顔が一番だった。
ただ、今日が綾の誕生日で、綾と約束していることを美空に伝えていないことに罪悪感を感じていた。
出張経費の領収書を経理部に持っていった帰り、給湯室の近くを歩いていたら、美空が俺を呼ぶ声が聞こえた。
美空が何か言おうとしたとき、石川に呼ばれた。
綾から電話があったと、石川は言った。
迂闊だった。
携帯を上着のポケットに入れたままだ。
(チッ)
胸の中で舌打ちする。
石川は美空がいることに気付いていないのか。
声をひそめることなく、綾からの伝言を俺に言う。
美空がいるのに。
そんな大きな声で言うなよ。
綾も綾だ。
誕生日だの、一緒に食事するだの、ベラベラ他人に喋ることじゃないだろうが。
石川と話をしている間、下を向いて、ずっと黙っていた美空。肩が震えている?
気まずい時間。
美空に言っておくんだった。
綾との約束を、俺が前もって伝えていれば、美空を傷付けずに済んだかもしれないのに。
何も言おうとしない美空に、俺は謝ることしかできなかった。
そんな俺に、笑顔を作って普通を演じる美空。
そして、そんな彼女の口から出た言葉。
約束?
この前の電話のときは、そんな話してなかった。
約束って...何なんだよ。