青のキセキ
タクシーから降りた私は、脇目もふらずに遥菜のいる部屋へ急いだ。
ドアをノックし、遥菜の名を呼ぶ。
「遥菜!開けて!!」
周囲への迷惑など考える余裕すらなく、一刻も早く遥菜の顔が見たくて声が自然と大きくなる。
しばらくして。
――――カチャ――――
と開かれたドア。
「遥...菜...?」
部屋の中に一歩入った私の目に映ったのは、シーツに身を包み、虚ろな目で私を見る遥菜だった。
口元は切れ、擦り傷だらけの顔は腫れあがってて、痛々しくて。
「どうし...何が...あったの...?」
「......」
唇を震わせ、何も言おうとしない遥菜。
カーテンを開けて部屋の中を見渡せば、異様な光景が目に入った。
床には中身が散らばったバッグ。
乱れたベッド。そしてぼろぼろの衣類。
ま...さ...か...。
遥菜が仕事であの男に会ったことは、翔ちゃんから聞いて知っていた。
遥菜は一言も発しようとせず、体を震わせている。
「遥菜...あんた、まさか、あの男に...」
真っ赤な目から溢れ落ちる涙。
「う..うっ...うわあぁぁぁぁ!」
叫ぶような泣き声をあげながら、その場に崩れ落ちた遥菜。
どうして...。
何故、遥菜がこんな目に合わなきゃいけないの...?
肩を震わせて泣く遥菜を前に、私の目からも涙が溢れ出す。
遥菜にかける言葉が見つからなくて。
私は、ただ、遥菜を抱き締めることしかできなかった。