青のキセキ
「謝らなくていい。お前が謝る必要なんてないんだから。謝らなきゃならないのは...俺の方だ」
背後から耳元で囁く課長。
「俺は...お前の苦しみに気付いてやれなかった。綾の性格を理由に、未だに別れることすら出来なくて、挙句の果てに、俺は...俺は...」
「......綾を抱いた」
...え?
綾さんを抱いた...?
「すまない」
「お前があの男に無理矢理乱暴されたと知って、俺は......」
私を後ろから抱き締める課長の手が小刻みに震えていた。
課長が綾さんを抱いた...。
私を抱くように、綾さんを抱いた...。
途端に渦巻く、嫉妬の波。
私には課長を責める権利なんか無いことは分かってる。だけど、体の奥底で心が悲鳴を上げる。
何かが壊れてゆく感覚。
歯車が音を立てて狂って行く...。
修一さんに抱かれた私と、綾さんを抱いた課長。
一度狂いだした歯車は...なかなか元には戻らないもの。
そして、また新しい歪みを生んでしまうんだ。
私が修一さんに抱かれなければ、課長が綾さんを抱くこともなかったんだ。
「...課長のせいじゃ...ないです。私が全部悪いんです。私がこんなことにならなければ...課長がそこまで苦しむこともなかったのに...。ごめんなさ...い。もう...私達...別れ...」
「愛してる」
背後から耳元で囁く、課長の声。
「...っ」
胸がいっぱいで言葉に詰まる。
『愛してる』
たった一言がこんなにも嬉しくて。辛くて。痛くて。
心が...震えた。
修一さんに抱かれた私を許してくれるの...?
課長に抱きしめられたまま、私は声を上げて泣いた。