青のキセキ
気が付けば、夕方。
始業時刻以降は予定が詰まっていたおかげで、あっという間に時間が過ぎた。
終業後、美空に電話しようと思ったものの、何て言えばいいのか分からなくて、手にした携帯をポケットにしまった。
重い足取りでマンションに帰ると、綾の姿は既に無かった。
ホッとしたのも束の間、携帯電話が震え、確認すると綾からの電話だった。
「...もしもし」
「私よ。今どこ?」
「今帰ってきた所だ」
「大丈夫なの?」
「...何が」
「昨日かなり酔ってたみたいだから」
電話の向こうでクスクスと綾が笑う。
綾の笑い声が癪に障る。
「昨日は素敵な夜をありがとう」
笑い声が止んだと思うのと同時、綾が言った。
「久しぶりに抱いてくれて嬉しかったわ。あなた、とっても激しいんだもの。びっくりしちゃった」
返す言葉がなかった。
綾を抱いたわけじゃない。俺は夢の中で美空を抱いていたのだから。
俺が求めていたのは、お前じゃなくて美空なのだから。
綾との電話を終えベッドに横になった俺は、手の甲を額に置き目を閉じた。
昨日、このベッドで俺は綾を抱いた。
考えたくない。思い出したくない。
こうなったのは自分のせい。
綾と別れることもできないまま、美空との関係を続けてきた俺に対する罰なのか。
この中途半端な関係に限界を感じ、翔に相談しようと思っていた矢先にこんなことになるなんて...。
綾の性格を言い訳に、綾を捨てることも出来ず美空に我慢をさせてきた。でも、結局は、自分自身が傷付かないようにしていただけだ。
そのつけが、まわってきたってことか...。
美空...お前は今どうしてる...?
あの部屋で一人、肩を震わせ泣いているのだろうか...。