青のキセキ
「かなりの海水を飲んでたみたいだし、2~3日は入院した方がいいそうです」
「......」
どうでもいい。
どうせ。
行く場所なんてどこにもないのだから。
帰る場所なんてどこにもないのだから。
「奥様は...?」
目が覚めたときから、男性の姿しか見えないことに気が付き、聞いてみる。
「さっきまでいたんですが、ホテルへ戻りました。また貧血を起こしても困るのでホテルで休むように言ったんです」
旅先で会っただけである私の命を救ったばかりか、夫婦での楽しい旅行中にこんな騒動に巻き込まれたのに、少しも迷惑そうな素振りを見せることなく、むしろ優しく穏やかな表情で語る男性。
「すみません...」
それ以外何も言えなかった。
「気にしないで。ゆっくり休んでください。僕はこれで帰りますから。妻にあなたが目覚めたことを報告しないと」
柔らかな笑顔でそう言って彼は病室から出て行った。
一人きりの部屋。
聞こえるのは...規則的に刻まれる無機質な音。