青のキセキ
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店を出ると、太陽が傾きかけ、空がオレンジに染まろうとしていた。
課長の後ろをついて歩く。
あの頃と変わらない後ろ姿に高鳴る鼓動。
蘇る記憶に、課長への想いが加速する。
「仕事中なのに悪かったな」
振り返り課長が言った。
「大丈夫です。ゆっくりしてきていいよって、葵さんも言ってくれましたから...」
多江さんの店からここへ来る前、課長の車に乗る前に、葵さんに連絡を入れた。
課長と会ったことを話すと、電話口の向こうで絶句している葵さん。
そして、少しの間をおいて『こっちのことはきにしないでいいから、ゆっくりしていらっしゃい』と、優しい声が返ってきた。
「送っていくよ」
車の助手席のドアを開けて、課長が言った。
「いえ...バスがありますから...ここで...」
これ以上一緒にいたら、きっと泣いてしまう。本心は、もっと一緒にいたいのに。
今でも胸が張り裂けそうに痛くて、課長の顔を見られないくせに。
あなたに会えた嬉しさ、喜びと、そして別れなければならない寂しさ、悲しみが入れ混ざった複雑な気持ち。
もう...頭と心がぐちゃぐちゃで、今にもここから逃げ出したい衝動を必死に我慢する。
私の気持ちを汲み取ってくれたのか、課長はそれ以上何も言わなかった。
パタンと音を立てて閉じられた助手席のドア。
後部座席に置かれた、多江さん作、山菜の佃煮が入った紙袋を課長から受け取り、お別れの挨拶をするために課長と向き合った。