ふわり、溶けていく。
ふわり、溶けていく。
――ふと、白い何かが視界に入って。
そして……すぐに消えた。
それに反応して足を止めると、アスファルトの地面とローファーがぶつかり合う。
コツン、と小さな音を立てた。
その間にも、白い物体はゆっくりと視界の上から下へと落ちていく。
……何度も、何度も。
ときには少し、落下速度を上げながら。
「…雪、か」
不機嫌顔で空を見上げる。
頭上にはそんなあたしと同じように、曇って捻くれたグレーの空が広がっていた。
憎たらしいことに空は、あたしが一番嫌いな雪を降らせてくる。
最悪、と。
小さく呟いた声は首と口元をぐるりと覆ったマフラーの中に埋もれた。
…雪は嫌いだ。
あの日のことを、思い出させるから。
どうしてあの日に限って、雪は降っていたのだろう。
思い出と結びつくものさえなければ、それでよかった。
そうすれば、ぐるぐると心の中で渦巻く物体を意識することもなかったのに。
< 1 / 15 >