ふわり、溶けていく。
「聞かせてよ。……彼女さんとの話とかさ!」
……嫌いな雪の記憶も、りゅうちゃんへの気持ちも。
きっと、ゆっくりと消えていく。
ふわり、ふわりと。
雪のように溶けて、いつかなくなるのだろう。
―― そしていつか、
「……あぁ、いいよ!」
形がなかったとしても、優しい思い出となればいい。
溶けてしまう前の雪の結晶が輝いていたように、あたしの恋も輝いていたはずだから。
「…よし! じゃあ、家まで競争して帰るよ!」
「はぁ!? …って、おい待て!!」
とろくさいりゅうちゃんを置いてきぼりにして、自分だけ先に走り出した。
りゅうちゃんの呼び止めを笑いながらかわして、振り返ることなくスピードを上げていく。
勢いに乗って、雪の欠片が何度も顔にぶつかった。
頬にゆっくりと、雫が伝っていく。
それがあまりにも冷たくて、あたしは雲の隙間から顔を出した青空を見上げながらずっと走っていった。
【おわり】