ふわり、溶けていく。
「……」
頭の中で考えていたって仕方がない。
魔法を使って時間を戻せるわけでもないし。
わざわざ足を止めて感傷にふけていた自分が馬鹿らしく思えて、右足を前に出した。
―― その瞬間、強い風が吹いた。
「…舞?」
冷たい風は制服のスカートを翻すだけでなく、一番聞きたくなかった声までも運んできた。
……いや、本当は一番聞きたくて、何よりも愛しいと思える声。
ドクン…と心臓が飛び跳ねて、勢いよく振り返った。
「…りゅうちゃん」
そこにはあたしに向かって「よっ!」と右手を上げる、幼なじみが立っていた。
……りゅうちゃん。
1つ年上で、近所に住んでる幼なじみ。
りゅうちゃんは左肩にスクールバックをかけて、左手をズボンのポケットに入れたまま近付いてきた。
……二人の距離が、少しずつなくなっていく。