孤独の戦いと限界
『告白されると、頭痛がするものなんだ』
『………』
『両想いなんて、理想に過ぎないからね』
『………』
男の性か、すかさず顔にチェックを入れる。
同学年で有名な、かわいい女の子だった。
『俺も考え過ぎる方だけど、あまり思い詰めないで』
『………』
『…ちょっと、動かないでね』
『…何ですか』
その女の子は、俺に警戒な視線を送った。
『おまじないをするだけだよ』
『…おまじない?』
『そう、意識が反れるおまじない、動かないで』
『………』
女の子の頭に、優しく手を乗せる。
考えを反らすには、思ってもいない行動が一番だ。
『君は何にも悪くないんだから、思い詰めないで♪』
『………』
『せっかくかわいいんだから、笑顔の方がいいよ♪』
『……、ふふっ』
セリフが、キザだったのか吹いたようだ。
『ごめん、俺みたい男には似合わないセリフだね』
『あ、いえ…』
『………』
でもさっきより、大分気分を良くしてくれたみたいだ。
『帰らないのですか?』
『頭痛があって人も通らない。こんな場所に女一人に出来ないよ。頭痛がマシになったら送るよ』
『それは悪いです』
『…気にしないで。後、俺はフェミニストだから、優先順位が女性なんだ』
『…難儀な性格ですね』
『…藤先生にも、同じセリフを言われたよ。やはり皆にとって俺は変わり者なんだろうね』
『藤先生って…』
『俺の担任だよ』
心なしか、藤先生に興味を示している気がする。
俺も相談に乗ってもらったりするが、もしかして彼女も…。
『俺は友達の輪に入らないから、気にしてくれるみたいなんだよ』
『そうなんだ…』
『性格は大雑把なんだけど、藤先生は頼れる。相談相手にお勧めするよ』
『よく話をするんですか?』
『…まぁね、俺のつまんない話を聞いてくれるんだ』
『…ふぅん』
『………』
『………』
時間は経過していくが言葉は交わさない。
日が暮れるのと、同時に風が少し肌寒くなってくる。
それだけが時間の変化を感じる。
『どう、歩けそう?寒くなる前に帰った方がいいよ』
『うん、もう大丈夫‥』
『じゃあ、送るよ』
『…一人でいいですよ』
『………』
あまりの突き放し方に、少し辛くなる。
『…俺のこと、嫌っすか?』
『そんな事ありません、でも…』
『…家に早く帰れば、俺ともおさらば、だ。さぁ、行こう』
『はい…』
〜帰路〜
『………』
『………』
俺ばかり一方的に会話して、遂にネタぎれ。
多分、今日は色んな事があったんだろうか。
俺も口を閉ざそう、察してあげなければ…。
『…さっきから無口で、どうしたのですか?』
『………』
『無口だと何か気まずいです』
『だって、俺ばかり会話してるもん。つまんなさそうだったから…』
『あ、ごめんなさい。でもつまらなくないですよ』
『じゃあ、今度はそっち。会話プリーズ』
『…藤先生とは、いつ知り合ったの?』
『友達の輪に入らないから、心配して声をかけてくれた時からかな』
『友達の輪に入らないで、何をしてるの?』
『読書だよ。ふっるーい本を読んでる』
『何のために?』
『失恋だよ、自分なりに失恋の答えを…、!!』
『失恋したんだ…、それはつらいですね…』
しまったぁぁぁ、今のは失言だった。
うっかり口を滑らせてしまった。自分の口を手で覆う。
『?、どうしたの?』
『…今更だけど、失恋の話は内緒にしてくれ。出来れば知られたくない』
『わかりました、誰にも言わないですよ』
『頼む』
『でも失恋に答えを探す、って言っても、失恋という答えが出ているじゃないですか』
『…まぁね、でもその失恋の女性を忘れる事ができないんだ…』
『新しい恋愛を探せば、いいかも』
『それも正しい、…でもそれは相手が見つかればの話だよ』
『やっぱり可愛くないと嫌なのかな?』
『………』
何だか嫌味のように聞こえた。
でも彼女は、可愛い方だから、男から色んな視線を送られたかも知れない。
男への偏見は強いと思う。
『…確かに一般的に可愛い方が好み、とか俺にもやましい部分はある』
『やっぱり…』
『俺は聖人君子じゃないからね、でも必要なのは…』
『………』
『良き理解者なんだ』
『りかいしゃ?』
『気持ちを理解してくれる人、だよ』
『難しい、ね…』
『例えば、両親や兄弟なら、理解を得やすいんじゃないかな』
『あ、ここまででいいです』
『…え?』
『私の家はここです』
会話に夢中になりすぎて、家に送ってるのを、すっかり忘れていた。
表札には、藤、と書かれていた。
『藤先生と同じ苗字なんだね』
『はい、まぁ…』
『じゃあね』
『励ましてもらって、送ってまでしてもらい、ありがとうございます』
『そんな行儀のいい丁寧語なんていいよ。それより頭痛を治すんだよ、今日はゆっくり睡眠してね』
『はい、ゆっくりしてます』
『バイバイ♪』
『はい、じゃあ…』