【短編】『夢幻華番外編』恋人の時間(とき)
ただ一つ望むこと
鮮やかに思い出すのは真っ赤に染まったもみじの葉。

風に煽られる美しい紅の葉と同じ位の生まれたばかりの小さな手に幼い俺は衝撃を受けた。

余りにも小さく余りにも頼りない…

それでも手を差し伸べるとキュッと握り締めてくる小さな命に訳のわからない愛しさと感動を覚えた。

はじめて生まれたての杏を抱いた日。

柔らかく不安定な身体を恐る恐る抱きかかえる俺を、無垢な瞳で信頼しきって見つめる杏を護ってあげたいと思った。

幼い杏が初めて俺の名を呼んだ朝

この世で愛しい存在に自分の名前を呼ばれる事がこんなにも甘美に聞こえるのだと感動で胸が震えた。

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