画家のゆび
「答えろ!」
ついに軍人は、老人の背中を蹴り飛ばした。
固い革靴が背中にめり込む、鈍い音がする。
老人は低くうめき声を上げながら起き上ると、帽子をちょっと取って無礼な軍人に挨拶をした。
「なにをしていると聞いている!」
「はあ…絵を、書いていたのですじゃ」
軍人は不思議そうに片眉を吊り上げ、老人の手元を眺めた。
彼には荷物と呼べる代物はせいぜい古い角灯しかなく、筆もキャンパスも、そこにはないのだ。
軍人は大きく高笑いした。
嘲笑であると子どもにもわかる。
この老人は正常ではないと思い込んだに違いなく、少年は憎悪の眼差しを送った。
「門限が過ぎる!
早く自宅に帰られよ」
「はいはい」
軍人は肩に引っかけた銃のベルトを担ぎ直し、くるりと踵を返して歩き去って行った。