【完】山伏ネコの旅日記
“ここだよ! ”
オレの声に気づき上空を見上げて姿を確認するとすぐさま怒りの牙を剥き出しにし、オレが登った木に体当たりをして振るい落とそうとしてきた!
オレは…必死で木にしがみつきながら更に木の上へとよじ登り上を目指した。
険しい道を登ってきたお陰で爪はよい具合に研ぎすまされて登るには最適だった。
それでも野犬のやつらも全力でオレを木の上から落とそうと体当たりを繰り返してくる。
時にその体当たりする衝撃で足をとられそうになるけど…ここで落ちるわけにはいかない。
“ちくしょう!”
野犬たちは‥悔しそうに尖った牙を光らせ…つりあがった野生の目をギラギラと血走らせ山の沈黙を破り咆哮をくりだした。
諦めきれないのか自らの体を木に幾度もぶつけて体当たりを繰り返し揺さぶり振り落とそうと敵も必死だ。
そんな状況の中、揺さぶられる木に張り付きながら前足と後ろ足に力を込めゆっくり上へと登っていく。
少しの油断も許されない緊迫した状況だ。
“もう少し…。もう少し…。”
呼吸にあわせて上を目指し心の中で唱え両足に力を込めながらゆっくりと登ってゆく。
上空にはいつの間にか月が夜を支配し満天の星が空で輝きを放っている‥。
手を伸ばせば届きそうな錯覚にも思えるほど夜空の風景を近くに感じていた。
“ゴオォォッ…!?”
…予告もなく突風が吹き付けオレは思わず身をかがめて木にしがみついた。
山岳の頂上近くのため、木もたくさんあるわけではないせいか…オレが登っている木も突風の影響を受けて煽られた。
下には…野犬たち…。
上空には突風という最悪な状態であったが…オレは前足と後ろ足で身体を固定して突風がおさまるのを待った。
しかもこんな時なのにオレの自慢の猫髭がピクピクと震える。
オレは思わずくすぐったい感覚を覚え木にしがみついたまま顔を押し当てた。
髭はなおもピクピクと震えその不快な感覚にたまらず空を見上げた。