【完】山伏ネコの旅日記

 “おい!
やばい雲行きになってきてないか?”


 雷鳴の轟く音に気づき…数名の野犬たちが声をあげた。


 “このままあいつを野放しにするというのか?”


 “そーだ!
そーだ!このまま飼い猫一匹逃したなんてことを、世間に知られれば生き恥さらすことになる!”


 危険を察知した数名の野犬たちの意見に対し、反対派の者たちが口々に反論した。


 “俺もそう思う!…山の天気は変わりやすいしこの場所を離れた方が無難だと思うけど…”


 “お前たち…雷ごときが怖いのか?
ピカッと一発なんていつものことだろ? …そんな事で怖じ気づきやがって!?”

 “なんだとー!?
 雷が怖いわけじゃないが…自然の掟には何物であろうと逆らえない…!
 みろ!
 あんな暗雲がいつもと同じに見えてるのならそっちの方がどうかしてるよ!

 “なんだとー!!”


 退散する派と残留する派で意見が真っ二つに分かれた。
 …野犬たちは気が立っていたせいもあるだろうが、お互いの意見の食い違いから取っ組み合いの喧嘩へと発展した。


 巨大な暗雲は雷鳴を轟かせながら再び幾つもの光の筋を生き物のように連ねて今にも襲いかかりそうな勢いだ。


 “危ない!
みんな木から離れろ!”


 俺の声と共に対立していた野犬たちは一瞬…空を見上げた。

 渦巻く空の中央から激しい雷光と雷鳴が重なり‥ 天から地面へと伸びる稲妻の光が放たれた…。
危険を察知したオレは、後ろ足を思いっきり蹴り上げ地面に飛び降りた瞬間…稲妻が真っ二つに木を引き裂いた。


 “ビカッー!”
 “ドォォーン!
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