鬼祓う巫女
「此処からは船が必要ですね」
桃太郎と姫巫女は森を抜け海へと出ると、朝日を浴びながら鬼ヶ島を見つめる。
さほど遠くもなく、しかし決して近くもなく。
夜を終えた鬼ヶ島は眠り、鬼門が閉じられた鬼ヶ島へは船を使うしかない。夜になれば鬼門は開くと同時に潮が退き道が出来るが、生憎太陽が行く手を阻んでいる。
夜が来るまで一旦歩みを止めるか、それとも船を手に入れ進むか。
鬼が寝ている今なら、制圧するのはそう難しくはないだろう。
しかし御告げの刻は夜。
考え込む姫巫女とは裏腹に、桃太郎は砂場に腰掛ける。
「時期に俺の遣いが帰ってくる。それまで休んだらどうだ?疲れただろ」
「お気遣い感謝します、桃太郎殿」
姫巫女は考えるのを止め、桃太郎の隣へと腰掛ける。
その際白くキメ細やかな砂が手に触れた。久方ぶりに触れる砂に視線を落とすと、砂に負けないくらい白い姫巫女の手は砂と同化したように見えた。それはまるで土に還る身体のようで。砂へと還らんとする身体を連想させ、姫巫女は反射的に手を砂から遠ざけた。
「なんだ、怖いのか」
その様子を見て姫巫女の心中を悟った桃太郎が、姫巫女に問う。
「……怖くなど、ありません」
遠くの鬼ヶ島を見つめながら、姫巫女は答える。その答えに偽りなどあるはずはなかった。姫巫女は鬼を封じる為だけに生きる存在。今更恐れを抱くこともなく、姫巫女の声は変わらず凛としている。
しかし、瞳はどこか哀しみに揺れていた。