鬼祓う巫女
自分が今からすることは、一生の罪を背負うことになる。鬼と言えど心は人とそうは変わらない。実際は見えない差があるのかもしれないが、姫巫女は紅蓮との接触ではそれを感じることが出来なかった。
それ故に、姫巫女には鬼の討伐が人の命を奪うのと寸分も違わないように思えた。
桃太郎は考え込む姫巫女から視線を反らすと、明るくなった空と海をの繋ぎを遮るように佇む鬼ヶ島を見つめ口を開く。
「お前の使命はなんだ?姫巫女」
「……急にどうなさったのですか」
突然問い掛けてきた桃太郎に視線を移し、桃太郎の無表情な横顔を眺める。
桃太郎は鬼ヶ島を見つめたままで、姫巫女を見ようとはしない。目を見れば相手が何を考えているか分かると言うが、鬼ヶ島を見つめる強い眼差しにどこか深い野望があるのは火を見るよりも明らかだった。
「俺には鬼を倒す野望がある。それが俺の使命だ」
そう言って視線を姫巫女に移した桃太郎の表情に、姫巫女は泡沫の予言を視る。
それは、神が告げた月夜。血だらけの鬼の頭領の息子と、鬼の血であろう返り血を浴びた桃太郎。刀に滴るのは鬼の純血。純血の赤が、視界いっぱいに広がる。
苦痛の表情を浮かべる紅蓮とは対照的に、桃太郎が浮かべていた表情は――
「どうした?」
「……っ、いえ」
チリ、と頭を掠めた痛みに痛んだ箇所に手を添える。
これほどまでに鮮明な映像を視るのことは今までになく、姫巫女の胸をざわつかせる。
何かを見落としている。しかし御告げは真実を全て伝えることはしない。姫巫女は冷や汗をかいた身体を軽く抱き締める。