鬼祓う巫女
夕方、逢魔が時と言われる時刻。鬼ヶ島へ偵察に行っていた桃太郎のお供が戻ってきた頃。日は沈み、潮が引き初め鬼ヶ島への道が徐々に現れる。
「そろそろだな」
無表情に引いていく潮を見つめながら、桃太郎は腰にある刀に手を添えた。
「百済(くだら)、お前は空からの襲撃と状況確認とを頼む。新羅(しんら)は俺と共に来い。高麗は紅蓮の居場所を探れ」
「「「御位」」」
百済と呼ばれた女は、背から生やした羽根を広げるとオレンジ色に染まった空へと羽ばたく。
緑色の雉の羽根は夕日に照らされ異色な色を放った。美しくもどこか畏怖を感じさせるその異色。初めて見る異形のモノに、姫巫女は目が離せずにいた。物珍しそうに見つめる姫巫女に、桃太郎は微かに笑みを作る。
「妖し混じりを見るのは初めてか?」
物珍しそうに見ていたことが見られていたと知り、姫巫女は少し顔を赤らめて答える。
「外に出た事は数える程しかありませんので…初めて見ました…綺麗、ですね」
「数える程とは……巫女の立場ゆえか?」
桃太郎の言葉に、姫巫女はこくりとうなずく。
「外界の穢れに触れ、巫女の力が弱まらぬよう気軽に外へ行く事は許されませんでした」
最も、それが嫌で何度も外へ飛び出したことはあった。姫巫女は特別扱いされるのが嫌で、なおかつ幽閉されているようにも感じたのだ。
しかし外に出ても姫巫女にとって良いことなどなく、連れ戻され罰を受ける日もあれば、運悪く鬼に出くわした日もあった。
「巫女とは面倒だな。立場を放ることもままなない。……まさに今の俺に近い」
「貴方も……」
「戯言だ、気にするな。道が開いた。行くぞ」
呟かれた一言の真意を確かめられぬまま、姫巫女は取り残される。自嘲気味に放たれたあの言葉は、桃太郎の漏らした数少ない本音なのだろう。運命を縛られた哀しき人間。姫巫女は桃太郎に僅かに近いものを感じ、その背中を見つめた。