鬼祓う巫女
「姫巫女殿」
潮が引き鬼ヶ島への道のりを歩む最中、姫巫女の後ろを歩いていた高麗が姫巫女に声をかける。
白い、模様の描かれた犬らしき面を着けた高麗の表情は見えず、声の質からも感情が伺えない。一寸ほど離れて歩く桃太郎は気づく様子もなく、姫巫女は思いがけぬ呼び掛けに疑問を持ちつつも、立ち止まり振り返った。
「如何されましたか?高麗殿」
「奇異な同胞を、綺麗だと申した人間は貴女様で二人目だ」
二人目、恐らく一人目は桃太郎だろう。敬意を込めた話し方は、打って変わって高麗の感情を露にさせる。
夕日で朱色で染まる高麗に対峙する姫巫女。白い面が薄い朱色に染まるのを見て、姫巫女は不思議だ、思った。己の着物も同じように染まっている。同じ場所に立ち、明日生きているか分からない、同じ運命にある。
先程の桃太郎との会話のせいか、今自分が外にいて、同じ運命の者と共にあるのが特別に不思議に思えたのだ。それが、高麗を見て気付かされた。
姫巫女は我に返ると、高麗との話へ意識を集める。問いには相応しくない台詞に、浮上する疑問。鬼退治以外に用がないであろう姫巫女に声をかけた理由。姫巫女には高麗の思惑は計り知れないでいた。
「我等は貴殿に感謝する。奇異な我等を受け入れてくれたそのお心に敬意を示し、我等は姫巫女殿をお護り申す」
「お気持ちは有り難く思います。しかし貴方方の負担になります故」
「覚悟は出来ている所存。……人を外れた我々の身を案じるとは、やはりお優しいお方だ」
高麗の区切りの良すぎる会話に、姫巫女は高麗が自分の言い分など聞く気がないことに気づく。敬意を示そうとしているのは嘘ではないようだが、高麗からはどこか急いている様子が伺えた。
「高麗殿、目的は如何なものですか」
姫巫女が問うと、高麗は一時の沈黙も置く。しかし直ぐに姫巫女がこちらの望みに気づいたことを知り、話始めた。
「単刀直入に申しましょう。姫巫女殿、貴殿に我々の願いを聴き遂げて欲しい」
「……願い、とは?」