鬼祓う巫女



一方、鬼ヶ島。


先刻浅い眠りについた紅蓮は、城内のただならぬ騒音に目を覚ました。

未だ朦朧とする意識を無理矢理引き戻し、様子を確認するために部屋の外へ出る。

案の定廊下は慌ただしく駆けていく使用人が多々おり、城内は落ち着きを失っていた。


「何があった」

傍を通り過ぎようとしていた女官を引き止め、状況を確認する。



「若様!! 申し訳ありませぬ、しばし自室にてお休みいただかれますよう」

紅蓮がいたことを気づいていなかったであろう女官は、慌てて居住まいを正した。

「休みなど先程とうにとった。何があったのかと聞いている」

不自然な女官の態度に苛立ちを覚え、少し強く詰問する。


このような騒ぎは、4年前の人間の反乱以来なかったはずだ。
それが今、再び起こっている。

ーーまさか。


答えを言い淀んでいる女官の横を通りぬけ数刻前に飛び出した部屋への扉を再び乱暴に開け放つ。


「閻魔!!いるか」

開口一番そう告げた紅蓮の視界の先には、口元にうっすらと笑みをうかべ、恍惚な表情を顔に貼り付けた父親の姿があった。


「紅蓮、いよいよ待ちわびた来客のお出ましだぞ」

「……っ!」

やはり、予感は的中したらしい。背中を冷たい汗が走る。

「やってきたぞ、桃太郎が。お前が天下を獲るための生け贄がな」


浮かべる笑みは徐々に深みを増し、もれる笑いが抑えられず部屋は閻魔の笑い声でしばし満ちていった。



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