鬼祓う巫女
1人笑い続ける閻魔を一別するなり紅蓮はすぐさまきびすを返した。
足早に部屋を後にし長い廊下を無意識の中進む。
来る、あいつが来る――
身体が妙に熱く感じ、鼓動の高ぶる。早鐘のように脈打つそれは、ざわざわと胸を騒がせる。
「…っ、は…っ」
血が、騒ぐ。
古来より脈々と受けつがれてきた鬼の血が桃太郎の血を欲しているのが嫌というほど伝わってきて、紅蓮は抑え切れぬ衝動を拳にのせ壁へと向けた。
どんっという爆音とガラガラと崩れ落ちる音が廊下に響き渡る。
「……くそっ」
未だ静まらぬ高ぶりに舌打ちをしていると、背後から音を聞きつけた女官達が集まってきた。
「若様、どうなさ「黙れ!!」
女官の言葉を遮り静止させる。
普通ならありえない紅蓮の行動にたじろぐ女官を脇目もふらず追い越して城の最上階へと向かう。
城の最上階へとつくと、鬼ヶ島の城下を一望できる。
紅蓮は襖を開け手刷りへと手をかけると、目に飛び込んできた光景に目を見開く。
見えたのは、閻魔を連想させる赤。決して美しいとは言えない岩で作られた鬼達の住み処は炎に包まれ、戦場と化していた。どんよりと邪気を含んだ空気は火から起こされる熱気に負け、鬼ヶ島は混乱に包まれている。
本物の、地獄を見ているようだ。紅蓮は手摺から乗り出した身体を城へと寄せる。
鬼の血が騒ぎ、ざわざわと身体を駆け巡る鬼の純血は、紅蓮の理性を奪っていく。
紅蓮は理性を抑えようと片手で顔を覆うが、指の隙間から見えた人間に、あっさりと理性の枷は外される。
戦場の中心で鬼神のように剣を振る、一人の男。
そして戦場には似つかわしくない美しき巫女。
桃太郎と、姫巫女――
待ち焦がれた逢瀬に、紅蓮は衝動を抑えることはせずに戦場へ向かうべく宙へと舞った。