鬼祓う巫女
「封!」
「ぎゃあああアアア」
姫巫女によって封じられた鬼は小さな箱に変わり、地面へと落下し転がる。
辺りは、火の海。所々から聞こえる鬼の断末魔と、混乱で叫ぶ声。まるで、地獄絵図のよう。たったの五人の襲撃だと言うのに、これ程とは。
桃太郎と、そのお供の圧倒的な強さは目に見えて異質だった。鬼神の如く刀を振る桃太郎は、他から見れば鬼にも見えるだろう。鬼は一体どちらか。先程封じた鬼の箱を拾いながら、姫巫女はそんなことを考えた。
「姫巫女殿!」
「高麗殿っ、新羅殿!?」
「ぐあああアアア」
姫巫女に鬼が襲いかかる直前、高麗と新羅が素早く鬼を切り裂く。切り裂かれた鬼は霧のように消え、姿を亡くした。
「あ、ありがとうございます……」
危ないところだった。高麗がいなければ大怪我を負っていた。紅蓮に刻まれた印があるとはいえ、死にはしないが受けた傷の痛みを印が消してくれるわけではない。刀が己の肉を引き裂く痛みを想像し、姫巫女は全身から冷や汗が吹き出たのを感じた。
「何してんだよ、アンタバカ?結局印頼りじゃん」
「新羅殿……」
姫巫女より五歳以上歳が離れているだろう新羅。己より身長も年齢も小さな少年に見下ろされ、やっと姫巫女は地面に座り込んでいたことに気づく。
立ち上がる手前、高麗が差し出してきた手に気付いた姫巫女は、新羅から送られる殺気にも似た視線を気にしながらも立ち上がった。
「新羅はまだ齢十四……お許しを姫巫女殿」
「ええ、気にしてません。それに、新羅殿のお気持ちも分かります。無意識にも私に印に頼る思いがあったのでしょう」
新羅に体を向けると、姫巫女は一礼する。
「助けてくださりありがとうございました新羅殿」
「……フンッ」
僅かな間が面で見えない表情を補うかのように鮮明に新羅の戸惑いを伝える。しかしまだ姫巫女を認めたわけではないのだろう。
新羅は姫巫女から体を背けると、そのまま戦場へ駈ける。
「誠に申し訳ない。新羅は人見知りが激しい。しかし新羅の言い分もまた一つ。此処は戦場。思念は捨てるよう願う」
「はい」
高麗は姫巫女が頷いたのを見ると、一瞬で姫巫女の前から姿を消す。そして高麗と入れ替わるように、桃太郎が姫巫女へ駆け寄る。
「おい、大丈夫か」
「私は平気です故……ご心配おかけして申し訳ないです」
姫巫女が無事なのを確認すると、桃太郎は暗色の瞳を細める。一層に鋭さがました瞳は、姫巫女の後ろにある鬼の城を見据えた。
「なら城へ向かうぞ。残りは百済に任せる」
「分かりました」
姫巫女は返事を返すと、城へ向かって走る桃太郎を追う。
城へ近付く度、脈打つように疼く背中の印。
二年前のあの日以来、こんなに印が疼くことはあっただろうか。幾度か疼くことはあったが、紅蓮の姿を見ることはなかった。脈打つ印が告げる。
紅蓮が、近くにいる――