鬼祓う巫女
「若君、強き鬼が近付いてますわ。構えてくださいまし」
「百済か。分かった」
百済は低空飛行すると、地上に降りようと緑色に輝く大きな羽根を広げる。しかし足が地に着くことはなく、直ぐに空へと戻ることになる。
「百済は離れていろ。空からの襲撃に備えてくれ」
「若君……?」
いつもとは違う雰囲気を漂わせた桃太郎に、百済は主人の顔色を伺う。姫巫女も同じように感じ桃太郎を見ると、桃太郎は昂る気を抑えるように、妖しく笑っていた。
待ちわびた、鬼との戦い。桃太郎の期待に応えたのか、辺り一面に禍々しい邪気が溢れる。
周りが火の海なのも関わらず、下がる空気の温度。ただならぬ冷気は、百済と姫巫女に鳥肌を立たせた。
「奴が、来る」
どれ程この時を待ち望んだか。
風を切り裂き、現れた鬼は妖しく笑う。金色の瞳が、退魔の刀を持つ桃太郎を捉えた。
そして桃太郎の暗色の瞳も、鬼の刀を持つ鬼を捉える。
「待ちわびたぞ、桃太郎」
「やっとお前の首を狩れる……紅蓮!」
紅蓮の刀と桃太郎の刀の刃が触れ合う。刃は擦れキギ、と音を出すと、紅蓮の邪気と桃太郎の覇気が混ざり力を生んだ。邪気と覇気を混ぜた力は容赦なしに周りのものを吹き飛ばす。
「きゃ……!?」
近くにいた姫巫女も例外ではなく、体が宙に浮き後方へと飛ばされる。しかし飛ばされたところを百済に捕まえられ、力の届かない上空へと逃れた。
「百済殿……感謝します」
姫巫女はほっ、と息を吐くと、紅蓮と桃太郎の激しい戦いに視線を戻す。
目にも止まらぬ速さで動く二人の影は、先程の力を何度も何度も生み出している。姫巫女が入る隙など、どこにもなかった。飛び込めば、印があれどあるのは死のみ。
「なんて激しい戦い……若君、ご無事でいてくださいまし」
耳元で呟かれた百済の一言。込められた願いに、姫巫女は百済の桃太郎への想いを知る。