鬼祓う巫女



『奇異な同胞を、綺麗だと言ったのは貴女で二人目だ』


百済は桃太郎を慕っている。それは恋慕であり、愛。奇異な己を綺麗だと言ってくれた桃太郎に百済は恋をした。百済の腕から桃太郎との記憶が伝わり、姫巫女は百済の顔を見上げる。高麗の犬の仮面と似た鳥の仮面があり表情は伺えないが、桃太郎を見つめる視線は熱いものなのだろう。


「百済殿は、桃太郎殿を慕っているのですね」


百済は姫巫女の横顔に視線を移すと、仮面の下で笑う。仮面から漏れた透き通るようで妖艶な声には、どこか可笑しそうに言葉を紡いだ。


「姫巫女殿も、恋をしたことがおありのようですわね」

「私はその様なことはまだ……」


桃太郎の戦いに視線を移していた姫巫女は、咄嗟に百済を見上げる。百済は再びクスリと笑うと、今度は切なさを交えた声で言った。

「御相手は、言わないほうが良いのでしょうね」

「……!」


百済に心を見透かされたようで、姫巫女はかっと頬を染める。実際見透かされたのだろう。誤魔化し目を反らしていた想い。閉じ込めていた心の深部を。


姫巫女は未だに戦う紅蓮を盗み見る。認めたくない。認めてはならない。けれど背中の印だけでなく、どんなに誤魔化そうとも胸までが疼きざわめく。苦しいほどに締め付けられて、見ているだけで辛い。


しかし誤魔化さなければならない。認めてはならない。殺さねばならない。


辛そうに顔を歪める姫巫女。恐らく姫巫女は己がどんな表情をしているかなど分かってはいない、無意識なのだろう。必死に想いを殺そうとしているのが百済にはわかった。


「姫巫女殿、誤魔化すのはもうお止めくださいまし。お気付きでしょうか?彼の者を見つめる貴女様の視線は愛しさが溢れていますわ」


百済の言葉に、姫巫女は言葉を失う。息をするのも忘れ、紅蓮を見つめる目を大きく見開いた。



「私が……紅蓮を……」



愛しい?




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