鬼祓う巫女
脳が必死に否定をする。認めたくない。認めてはならない。認めてはならない。
「鬼、ですよ。ましてや私は巫女……あってはならないことです」
「そうですわね。貴女は彼の者を封じる巫女……これより彼の者を封じなければなりませんわ。けれども封じた時、貴女様は酷く後悔するのではありませんですこと?」
「後悔など……!しません。己のしたことには責任を持ちます。私も、覚悟して此処にきています」
「堅くなですわね」
姫巫女の強い意志を宿した瞳を見て、百済は仮面の下で呆れたように微笑む。
「姫巫女殿、義務と覚悟は違います故。……貴女様は決して悲しい選択をなさらないでくださいまし」
百済は悲しげに言い終えると、近くの岩山へと姫巫女を下ろす。そして自分も岩山へ足をつけた。その所作は美しく静かに、誰もが魅了されるような動き。
相手は違えど、同じ恋慕を持つ姫巫女を百済はそっと見守る。
この世に愛しさに勝るものなどない。どんなに誤魔化そうと、どんなに己に言い聞かせようと、消せない想いがある。姫巫女は気付いているだろうか。言い聞かせた言葉が、もう自分の意志でないことに。認めたくないのは自分の意志。しかし認めてはならないは義務。
百済は愛しい主人に再び視線を送る。
どうか、どうかこの戦いの結末が幸せなものでありますよう。
そっと架けた願いは姫巫女に伝わったのか。姫巫女は一粒の涙を流した。