鬼祓う巫女
刃を交えると相手の考えている事がわかる、と言うが、紅蓮は桃太郎の心中など微塵もわからぬまま刀を振りかざしていた。
感じるのは、己を突き動かす血の躍動のみ。
1000年前の鬼と退鬼師の戦いから脈々と受け継がれた血は、今も薄れる事なく己の身体を駆けめぐっている。
キン、と刀が鍔を弾き双方後退し距離をとる。
煙が風と混じり視界を再び白く覆い始めるが二人の身体を完全に覆い尽くす程ではなかった。
「……お前は」
紅蓮はしっかりと桃太郎を見据え口を開いた。
「お前は何のために戦っている?」
それは、二年前聞きそびれた問いであった。
そして二年前姫巫女に問うたものでもある。
「鬼に苦しまされている人々を守るためか?それともあの巫女のようにそれが己の運命だからなどとでも言うつもりか?」
岩山へ視線をやり姫巫女へと目線をうつす。
しかし姫巫女の瞳から零れた涙をとらえると、すぐに桃太郎へと視線を戻した。
一瞬彼女の涙を拭いに行かんとした自分に気づいたからだ。
戻した視線の先の桃太郎は口元を歪め答えた。
「何故戦うかだって?そんな事決まっている……復讐のためだ!!」
言うと同時に一気に間合いを詰められる。
「復讐、だと!?」
予想外の答えと攻撃に反射がかすかに遅れ刀の切っ先が腕を掠った。
先程よりも激しく振りかざされる刀。一撃一撃が重く、鬼より遥かに劣っているはずの人間の筋肉が極限の力で鬼の紅蓮を押していく。
「俺の育ての親はお前ら鬼に殺された!目の前で、無惨に、原型も止めないほど残酷にな!」
「……っ!」
キン!と弾いた桃太郎の刀が紅蓮の頬を抉る。深く切られた傷からは真っ赤な血が流れ頬を伝う。