鬼祓う巫女
「高麗っ、本気なのかよっ」
「姫巫女殿、有り難き」
高麗は新羅に背中を叩かれ抗議を受けながらも姫巫女に一礼すると、直ぐに顔を上げる。
「しかし、良いのですか。巫女の力は憑き物の貴方には毒となりえます。そうなれば……命を、自ら縮めることになります故」
憑き物は本来動物の霊。悪霊とはいかぬとも、鬼に近いものである。つまり巫女の力とは相対する力。巫女の力を身体に取り入れれば、長年憑き物として生きてきた高麗には毒となり、最悪直ぐに命を落とすだろう。運が良くとも、憑き物と巫女の力の相対に苦しむことになる。
高麗は少しの間押し黙ったが、意志をはっきりと持って答えた。
「構わない。主を、かつての友を救えるならば」
高麗の意志を姫路は受け取り、己の中の退魔の巫女の力を感じるため神経を研ぎ澄まさせる。
この力を、高麗殿に。
全身を流れる巫女の力。溢れる気を身体に留め、一点に集中させる。
しかしその集中は地の揺れと爆音に僅かに途切れかけ、耳に入った戦いの末路が姫路の心を揺さぶった。
「ぐっ、桃、太郎っ……!」
紅蓮の声に振り向けば、紅蓮が地に背を預けた状態で桃太郎とつばぜり合いとなっていた。人間より遥かに力の勝る紅蓮が桃太郎に押されている。
「姫巫女殿!乱されるな!力を早く!」
「高麗殿っ、」
渾身の力で巫女の力を身体から取り出すと、高麗へと力を移す。高麗を青い光が包み、引き継ぎは行われた。退魔の力が身体へ入っていく感覚は憑き物を刺激し、反発し合う両者の力が高麗に激痛を与える。
「くっ、」
「高麗殿、」
「触るな百済!」
慣れない力を手にしたにも関わらず、高麗は無力な娘となった姫路に視線を投げ掛ける。
姫路はその強い視線に、夕暮れの刻を思い出した。高麗が口に出さずとも、巫女の力がなくとも、高麗が何を伝えんとしているのかが肌で感じとれる。
「我等に命じてくれ」
「……っ」
もう、疑問に思うことなどなかった。
悲しげな百済と怒る新羅を見て姫路は迷いながらも、決断を下す。
「邪を討ち、紅蓮を守ってください……」