鬼祓う巫女
邪、桃太郎を討つ。
鬼となった桃太郎を救う術は、邪を封印することのみ。しかし封印は永遠の呪縛。邪は封じられるが、桃太郎の自我は死ぬ。自我が死ねば身体は死に、それは桃太郎の完全なる死を意味する。
「嫌だ!僕は嫌だ!兄者を殺すなど出来るものかっ!」
「新羅、鬼と化した桃太郎を討つと決めたのはとうの昔に互いに決めたことだ」
叫びを上げる新羅。姫路は、三者にとって桃太郎がただの主でないことに気付く。否、気付いていたのだ。
巫女の力を引き継ぐ間、ほんの僅かな間だったが高麗との記憶の共有があった。恐らくそれは、次の巫女へ術式や巫女の記憶を引き継ぐ為のものなのだろう。巫女から巫女へ。自分の知らないところで、巫女の力は引き継ぎをされていたのだ。これも予測だが、死ぬ間際、巫女から次の巫女になる赤子へと引き継がれていたのかもしれない。
「行くぞ、新羅、百済」
桃太郎を友と想う高麗。
育ての親である桃太郎を兄者として慕う新羅。
大切な想い人として恋慕を抱く百済。
主従関係であれど、個々にとって桃太郎は大切な者。
三者は姫路に背を向けると、桃太郎の元へ向かう。
丁度、予言の光景と等しく桃太郎が紅蓮を討たんとしていたところだった。桃太郎は地へ背中を付けた紅蓮へと跨がると、刀を両手で持ち心臓目掛けて刃を落とそうとする。
「お前も地獄へ誘ってやる、紅蓮――」
桃太郎は月夜の下で妖しく笑うと、刀を振り落とした。赤い鮮血が、着物にじんわりと滲んだ。彼の者の口から、血が吐き出される。